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【前編】日本の社長は海外にいた方がいい。1年の2/3海外にいるMonstar Lab代表 鮄川の世界視点

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先日、ACOとMonstar Labがパートナーになったことをお伝えしたと思います。日々交流を重ねながらお互いの理解を深めていますが、まだまだ知らないことだらけです。

デジタル・クリエイター集団である彼らは、2006年に音楽配信サービス「monstar.fm」を立ち上げ創業しました。2014年からは、グローバルソーシング・プラットフォームの「セカイラボ」をスタートさせ、サービス、人材、拠点、市場において正真正銘のグローバル化を進めてきた背景があります。現在は、12カ国21都市に自社拠点を展開。昨年に、デンマークのデジタル・プロダクト開発会社のNodes(ノーズ)ともM&Aを実現したばかりです。

さらに世界展開を加速させているMonstar Labですが、その先頭で舵を取っているのが代表の鮄川宏樹さん。1年の2/3は世界各地にいるというご本人ですが、その目に映る“いまの世界”をどんな風に捉え、どんな風に分類しているのでしょう?

その答えを知ることで、もう少し彼らが描く未来の輪郭が見えてくるのではと思い、お話しを伺うことにしました。前編では、ヨーロッパ、東南アジア、中東など、日本以外の国と地域について語っていただいています。

Guest

Hiroki Inagawa

鮄川 宏樹:株式会社モンスター・ラボ 代表取締役 CEO・1999年プライスウォ—ターハウス(現IBM)に入社し、IT・経営コンサルティング業務に従事。2000年11月、テクノロジーによって社会を変えていくインターネットの世界に魅せられ、当時日本でオブジェクト指向技術の先駆けであったベンチャー企業株式会社イーシー・ワンに入社。2003年には会社内最年少マネージャーとしてJASDAQ上場を体験。2006年豪州Bond UniversityのMBAプログラム受講を経て、これまでの集大成となるビジネスプランを事業化し、2月に株式会社モンスター・ラボ設立と同時に代表取締役就任。2014年にグローバルソーシング・プラットフォームのセカイラボを開始し、現在は、12カ国21都市に自社拠点を展開。

東西南北から知る、ヨーロッパのリアル

鮄川氏とNodesのメンバー
--鮄川さんは、1年の約2/3の期間は海外に行かれているそうですね。実際に足を運んでいることで、ご自身ならではの世界に対する見え方があるはずです。仕事を通じて見たり感じた、今の世界についてお聞きできればなと思っています。

はい、思いつくまま自由に話してみますね。まず、デンマークのデジタル・プロダクト開発会社《Nodes》のM&Aを検討していたときは、候補企業を約300社リサーチして、シンガポールのリサーチチームが150社とSkypeで話して、自分で直接10カ国70社のオフィスに行きました。1カ月ぐらいの出張を何度か重ね、いろいろな都市で毎日3〜4社と会っていたという感じです。

--普通ではあり得ない数だと思いますし、誰かに任せることもできると思います。なぜ、自ら70社も回ろうと?

世界一の会社を目指すのであれば、市場が大きなヨーロッパと北米は外せませんが、国や地域によって一つ一つマーケットが違うので実情を確かめるためです。あたり前の話ですが、同じヨーロッパでも東と西では違いがありますよね。東欧の中でも、ウクライナ、ベラルーシ、ポーランドなど旧ソ連圏の中には良い開発会社がたくさんあります。ウクライナはヨーロッパだけじゃなく、北米向けの仕事を結構やっていたりして。

--ヨーロッパ圏であれば、時差の影響も少なくメリットも多いような気がしますが、なぜ6時間ほど時差のある北米なのでしょう?

マーケットが大きいのはもちろん、純粋に北米から仕事の依頼が増えているからです。というのも、昔は北米のアウトソーシング先といえばインドが主流でしたが、最近は南米や東欧も多い。そういう状況もあって、東欧の会社も成長してきているのではないかと思います。

--Nodesの本拠地はデンマークになりますが、あらためて彼らをパートナーに選んだ理由を教えてください。

ヨーロッパのマーケットを考えると、やはりイギリスが重要だと思っていたので、最初はロンドンを中心に調査していました。たしかにNodesはデンマーク・コペンハーゲンの企業ですが、ロンドンの支社に約30人のチームをつくって、ある程度のマーケットを確保していたんです。僕らとしてもヨーロッパ各国の会社を順番にM&Aをしていくわけにもいかないので、すでに複数国に展開していて、それなりの市場を持っている会社がいいなと。実際はかなり少ないのですが、その条件を満たしていたのがNodesでした。

--Nodesのようなデンマークの会社が他国に拠点を持っているということは、国外にどんどん出なくては、という意識があるからなのでしょうか?

デンマークは人口550万人くらいの小さな国ですが、教育水準はすごく高くて、みんな英語が話せます。だからタクシーに乗っても、カフェやレストランに行っても英語が通じる。そういうこともあり、みんな最初から外で稼がなくてはいけないという意識がすごく高いです。

--なるほど、言語環境が影響しているんですね。

おもしろいのは、大国はあまり英語を使いません。ドイツやフランスも、英語を話さない人が結構多くて。日本、中国、ブラジル、ロシアもそうですよね。これは世界共通で、大国はマーケットも大きいから英語を話すニーズがあまりない。外貨を稼ぐ必要もないから、外に出ていく意識がすごく弱いんです。

ヨーロッパで事業を展開していこうと思ったら、英語圏が一つの鍵になってきます。そのなかでも、ブレグジットの問題はありますが、やはりイギリス・ロンドンは重要なエリア。その次は、規模でいったらドイツ。だから僕らも、ベルリンにオフィスを出しました。

--ベルリンもNodesのオフィスですか?

はい。もともとNodesはオフィスを3つ持っていて、コペンハーゲン、ロンドン、そしてデンマークの第2都市にあたるオーフスでした。2017年の8月にM&Aを完了して、その後も4つのオフィス出しています。それがイギリスのマンチェスター、オランダのアムステルダム、ドイツのベルリン、あとはチェコのプラハです。

コペンハーゲンのNodesのオフィス風景

コペンハーゲンのNodesのオフィス風景

各国のリビングコストがもたらす、ビジネスへの影響

--プラハはあまり馴染みがないですが、どのような部分にメリットを感じたのでしょう。

チェコはやっぱりセントラル・ヨーロッパなので立地がいいですし、ウクライナや他の東欧ほどではないけれど、西欧に比べると人件費やその他のコストが安いです。しかも、EUに加盟しているのも大きいですよね。

--人材の質はどうでしょう。

チェコ人の水準は高いと思います。ただ、人数がそれほど多いわけではないですから。そもそもプラハに拠点をつくったのは、Nodesのデンマーク・オフィスにいたiOSのリードエンジニアが若いチェコ人で、母国に帰ると言うので彼を中心に立ち上げたのがきっかけなんです。ロンドンとコペンハーゲンの人材も探していたのですが、非常にコストが高くて、クライアントに請求しているエンジニアの単価も、日本の2.5倍だったので難しくて……。

--M&A戦略というのは、ビジネス的な観点だけでなく文化や風土やパーソナリティも影響してきそうですね。

そうですね。そもそもヨーロッパは歴史的に東西の経済格差がありましたけど、実はまだ南北で特徴の違いを感じられます。例えば北欧でいうと、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドあたりは裕福です。なので、物価も高いし、エンジニア単価も高い。ノルウェーは、コンビニでコカ・コーラを1缶買おうと思ったら¥450ぐらいしますから。

--高い!

ビールも高いですよ。でも、半分税金なので、教育も医療も全てタダですけど。

--南欧はどうでしょう?

スペインはエンジニアが増えています。会社によっては、バルセロナに2拠点つくる会社もあるくらい。その理由は、純粋にコストが安いから。とは言っても、ウクライナに比べればかなり高いですが、ウクライナはEU加盟国ではないので、EUのマーケットを考慮するとスペインは選択肢に入ってきます。ただ、景気が悪く、失業率も高い。もちろん、ある程度のマーケットを見込めますが、将来性があってすごく魅力的かといえば、そういう感じでもなくて。

--東欧と西欧の境に位置するドイツは、どんな特徴がありますか?

今はもう統一されていますが、それでもまだ東西での違いを感じます。西ドイツのミュンヘンやフランクフルトは、産業もあるので生活費は高いですが、東ドイツのベルリンは産業がないので生活費が安い。なので、東欧ではエンジニアやデザイナーが増えていて、単価は安いですが良い人材が多いのも特徴です。そういうこともあって、スタートアップが盛り上がりつつあります。

シリコンバレーはもはや高すぎて、スタートアップが生活できるようなエリアではなくなってきていますよね。それに対して、アメリカの別の地域では増えている。ベルリンでスタートアップが増えている理由の一つも、そんなふうにリビングコストが安くて優秀な人が他の国から入ってきているからです。生活面って非常に大切というか、ビジネス的にも影響してきます。

隣国なのに知らないことだらけ、東南アジア市場のいま

--東南アジアはどんな風に捉えていますか?

基本的に、私たちにとって良いマーケットは、1人当たりのGDPが高くて、国のサイズも大きいことです。東南アジアでいえば、小さい国ではありますが、シンガポールは1人当たりのGDPが突出して高い。リージョナル・ヘッドクォーターや外資系企業も多いので、マーケットとしてはある程度は魅力的です。

--たしかにシンガポールは、ビジネス拠点としてイメージしやすいですね。

そうかもしれませんね。シンガポール以外で注目しているのは、GDPや物価水準は下がりますが、人口的な観点でいえばインドネシアです。経済水準や発展度では、タイやマレーシアはおもしろいですが、僕たちのITプロダクト開発の領域で仕事が多いかというとまだまだ。ただ、人口が多いので、コンシューマー向けサービスなどは将来性があるとは思っています。

--タイといえば、バンコクにコワーキングスペースを開設しましたよね?

東南アジアの主要都市にコワーキングスペースを作りたくて、その第一弾が「Monstar Hub Bangkok」となります。今後は、マニラ、ダッカ、ホーチミンシティ、クアラルンプール、ジャカルタなどでも展開して、協業先やスタートアップを見つけていけたらなと思っています。

--一方、フィリピンやベトナムは、日本にも馴染みがあるエリアだと思いますが。

タイやマレーシアと比べて、少しだけ単価も人件費も生活費も安いです。フィリピンは人口が約1億人ですが、9割以上の人が英語を話せます。英語圏向けのビジネス、特にBPOやコールセンターが強いですよね。そういう意味では今、開発拠点、エンジニアの数と質、コストの3つのバランスが良くて、日本向けにフィットするのがベトナムかもしれません。

--ベトナムをマーケットとして捉えている開発や案件はありますか?

ベトナムとフィリピンは少しだけあります。でも、そこまで大きくありません。ベトナムに進出している大手金融機関のフィンテック的なプロダクトを作っていたりします。

--ちなみに、それは日系の企業ですか?

欧米系の会社です。フィリピン拠点に関しては、主にローカルな企業や政府関連の仕事を請け負っています。ベトナムに関しても、政府系向けの案件はやっていますね。

--そういった案件については、いつか市場になるということですか。

いつかは。

--どのぐらいのスパンをイメージしているんでしょう。おそらく数年先という、近い将来の話ではないとは思いますが。

近い将来という感じではないですし、数年間で営業拠点としてすごく魅力的なマーケットになるとも思いません。ただ、人口が多いので、コンシューマー向けサービスはあり得るかなと。

--今後、爆発的に盛り上がる可能性もありますか?

eコマースのようなものであれば、インドネシアやタイはすごく成長しています。

バンコクに開設したコワーキングスペース MONSTAR HUB

バンコクに開設したコワーキングスペース MONSTAR HUB

オフショアから脱却し、マーケットへと変貌した中国

--アジアはどんなふうに理解しておけばいいのでしょうか。

中国はアグレッシブで先進的です。デジタル領域でいえば、世界で一番進んでいるようなサービスも出てきています。マーケットも大きいし、中間層も増えているので、非常に成功するサービスやプロダクトも増えてきています。

一方、人口が多いので、私たちのようなプロダクト開発はもちろん、多種多様なサービス業の競争がとにかく激しい。トレンドものがひとつ誕生すると、すぐに何十社も参入して、こんなにあるのにまだやるのか?! というくらいヒートアップします。最近でいえば、自転車のライドシェアとか。

とはいえ、バイドゥ、アリババ、テンセント=BATが、やっぱり強い。それら企業がいろいろ買収したり、新しくサービスを始めたりしますから。

--ひと昔前の、賃金が安いオフショア開発国というイメージは、もはや中国から感じられなくなりました。

オフショアだとはまったく思わないですし、実際ぜんぜん安くないです。中国は完全にマーケット。僕たちも越境ECの市場や中国向けのローカライズなど、中国と何かしら関係がある会社の仕事は受けますが、単純に日本向けの仕事をオフショアでやれる場所ではありません。ベトナムと比べると非常に高いです。

資源がある国はイノベーションが起きづらい

--中東にも行かれますか? どんなマーケットなのか気になるのですが。

UAEやサウジアラビアなど、湾岸諸国のマーケットもおもしろいと思っています。カタールは数年前に、1人当たりGDPが世界一になりましたよね。そのあたりの産油国はマーケットの単価もすごく高くて、エンジニアが少ない。これも世界共通だと思いますが、資源がある国はイノベーションが起きづらい。みんなレイジーになってしまうんでしょうか。

ノルウェーも優秀なエンジニアやクリエイターがいて、みんながみんなハングリーかというとそうでもない。それは資源があるからなんですよね。ノルウェーって人口が600万人ぐらいですが、5000万人ぐらいが食べられるぐらい、毎年、石油が採れるので。

--そういう感触や空気感というのは、実際に現地へ訪れてみると肌感として分かったりするものですか?

判ります。例えば先ほど言ったように、デンマークやフィンランドだと、外貨を稼がないといけないので積極的に国外に出ていきますが、あまりそういう雰囲気もなくて。たまに危機感を持っている人もいますが、フィンランド、スウェーデン、デンマークと比べると、ノルウェーは、明らかにスタートアップが少ない。俺たちにはオイルマネーがある! といった感じでしょうか。

--そのような状況は、現地へ行く以前から知っていましたか?

いえ、知りませんでした。実際に行ってみて感じたことなので、言葉で説明してもピンとこないというか、イメージしづらいかもしれませんね。ドバイのような湾岸諸国は、本当にそんな感じなんです。この前ちょうどバーレーンへ行ったのですが、労働者はほとんど外国人。パキスタン、ネパール、バングラデシュなどから来ていて、Uberのドライバーなどいろいろな労働をしています。将来的にAIやロボットが発達したら、人間はクリエイティブなことだけをすることになるかもしれません。AIやロボットが担いそうな労働を外国人で成り立たせているのが今のバーレーンかもしれません。

--とはいえ、中東全体がそういう状況でもないんですよね?

はい。ヨルダンは砂漠なのにオイルがない。資源がないので、全然リッチではありません。しかも、もともとパレスチナ難民が国民の6割ぐらいで、自分たちは人材しか未来がないと思っている。だから、大学とか教育にすごい力を入れています。基本的に小国は英語もITも学び、とてもハングリーです。

--ちなみにMonstar Labでは、ヨルダン・パレスチナで雇用を生むためのプロジェクトが、JICAの「SDGsビジネス調査」に採択され事業展開調査が開始されることになりましたよね。

シリア内戦によりヨルダンに移動したシリア難民は、65万人以上と言われています。そのことで難民問題が長期化・大規模化し、雇用機会の不足が課題となっているのです。パレスチナ・ガザ地区では、2006年頃から継続する輸出入の制限・封鎖と度重なる軍事衝突によって、若年層の失業率は58%を超えています。

それら課題に対し、本プロジェクトでは僕らの強みを活かしながら、ヨルダンのシリア難民およびパレスチナ自治区ガザ地区の若年層の雇用・育成をし、ソフトウエア開発業務につなげることで、難民の経済的自立を促進することを目指しています。

--ちなみにシンガポールは、資源はないけれど裕福ですよね。

資源はありませんが、リー・クアンユーがうまく都市を設計して、規制を撤廃したり税率を下げたりしてきました。外国企業を誘致して、英語を公用語にしたり、他に類を見ないような特殊な国です。

アフリカのルワンダは、1994年に映画『ホテル・ルワンダ』の題材にもなった大虐殺が起きて、フツ族、ツチ族という人たちの殺し合いが起きました。そこから20年で、非常にクリーンかつ安全で、アフリカの奇跡といわれるくらい復興を遂げています。非常に小さな国で、東アフリカのシンガポールになるということで、シンガポールを参考にしていますよね。

鮄川氏がM&Aにて世界を回った時の様子

なぜ小国では、IT事業をやる必要があるのか?

--そのルワンダは、ITにすごく力を入れている国なのですか?

そうです、力を入れています。

--それは、人材を育成して外貨を稼ごうとしているわけですか。

いえ、まずはエストニアみたいに、eガバメントといったデジタル国家を目指すプランをいろいろと立てている段階です。そもそもルワンダは、アフリカの中でも面積も人口も小規模な国なので、ITの領域で何かしらやらなければいけない状況があるんです。

--資源がなかったり小さかったりすると、国を維持するために国策としてIT人材を集積させるということですか。

そうです。ただ、ルワンダにはまだエンジニア人材はいません。アフリカ全体に共通していることですが、まず政府がeガバメントなどのITインフラを整えるところから始まるので人材がいない。なので、インドにアウトソーシングしている国が多いですし、政府系の大きな開発はほぼインドの企業が請け負っています。

インドも地域によりますが、バンガロールに行くとプロダクト企業が多くて、アメリカ向けに仕事をしていたりします。一方で南インドのケララ州など行くと、アフリカや中東向けに仕事をしている会社が結構あります。

--具体的なイメージができないのですが、経済的にあまり豊かではない国では、どこもITの仕事をすると結構お金を儲けられるという感覚はあるのでしょうか?

ありますね。特に個人レベルでいうと、クラウドソーシングなどのプラットホームも出てきていますので、バングラデシュなど貧しい国に行くと、直接外貨を稼ぐ人たちも増えています。

【後編】はこちら
〜後編では、世界から見た日本について語っていただきます〜

by ACO Journal Desk

ACO Journal 編集部です。

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